
日本ではとかく「地道な努力」が正しいものとして捉えられがちである。
しかしそのせいで、成果の出ない努力を継続し、無益、あるいは有害な状態が深刻化することがある。
このセオリーは、それを避け、もっと有益なことに時間を使った方が良いという考えに導くものでもある。
何かを辞める勇気――
それもまた「有限な命を有益に使うため」に必要な勇気と言えるだろう。
ただ単に命のバトンを次世代につなぐということではなく、せいいっぱいの成果を残し、達成感に満ちた人生を走りきるためにも大切な考え方だと思う。
「儲からずに赤字続きの事業をやめる・・・」
「いがみあってストレス満載の男女関係や夫婦関係をやめる・・・」
「給料が安く、労働時間が長く、人間関係が劣悪な職場で働き続けるのをやめる・・・」
これらを辞めること、辞める勇気を持つこと、そして辞めたあとに、人生にとって本当に有益なことをする――
それこそが、命を本当の意味で有効活用することなのかもしれない。

私にも同じような経験がある。
志を持って、任務についた会社を思い切って辞める決断をしたことがある。
創業時に役員にもなり、会社の業績が悪いときには個人でお金を借りて会社に入れたりもした。
オーナーとは一心同体、運命共同体の誓いをし、一生懸命業務にあたった。
ところが次第に、会社の経営方針や、オーナーの人間性に対して、どうしても納得できない心理状態となっていってしまった。
おまけに会社の業績は悪化し、会社の雰囲気も次第に悪くなっていった。
「オーナーの方針や人柄には納得いかないけれど、こんな時だからこそ、なんとしなければいけない! ここで逃げたら男がすたる!」
――そう思った私は、オーナーとの軋轢を抱えながら、仁義を尽くすという意味でそこを辞める選択は持ち得ていなかった。
ところが、その仁義を破るときがとうとうやってきた。
友人からのある一言が、私の命の使いみちを大きく変えたのだ。
「外から見ていて実に人生がもったいない。
辞めるべきだ。
もっと得意技や人脈を活かして頑張れることがあるはずだ」
その一言で私は目が覚めた。
そして、会社を辞める2か月前から、私は恋愛についてあるウェブメディアでの連載を副業で始めた。
会社を辞めた直後は、大きな喪失感に駆られもした。
しかし、その代わり私はとてつもなく大きなものを得ることができた。
“本気の人生”だ。
今までの10倍くらい本気で働くことで、かつてない興奮と達成感を感じることができたのである。
たった1人しかいない小さな会社法人代表として仕事をはじめ、そして恋愛や人生のことを書くエッセイストとしての「本気の仕事」を手に入れた。
そして自分の意思で前向きなぐじゃぐじゃ状態になりながら、その2年後、1冊目の本が出版されることになったのである。

これができたのは、まさしく会社所属時代に始めた秘密の副業連載のおかげだった。
苦し紛れに会社員時代に掴んだ“雲の糸”が、その後の“命の躍動”に導いてくれたということである。
そこから私は、2019年までに69冊の書籍を書き、167万部を売り、周辺事業をおこない、自社施設まで建設するに至った。
もしあのときIT企業を放棄しなかったら?
会社に秘密でエッセイを副業で書かなかったら?
・・・今頃どうしていたかわからない。
この17年間、私は先人からの命のバトンを誇りを持って走ってきた。
ときに転んだり、歩いたり、それでも一生懸命、自分の足を使い、自分の走り方で、走り続けた。
何一つ悔いはないし、誇りを胸に進んできた。
何を辞め、何を始めるのか?
その選択と決断しだいで、人生の後悔は何十分の一に小さくなり、幸福は何百倍にも膨れ上がる
――そのように信じてやまない。
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